殆ど治っているのだが、時折胸から手首にかけて張りが出て、肘前部のくぼみに硬い血管あり、触ると硬い筋になっている。腕をまっすぐ伸ばすが辛い。
こんな症状にぴったりのAxillary Web Syndrome(腋窩網?症候群:AWS)について、
前回少し書いたが、その文献(4)は理学療法士が書いた2001-2004年の研究レビューと実際行われた治療法。特に機序や治療についてメモ。
Kepics, Jane M (PT)
Physical Therapy Treatment of Axillary Web Syndrome・
Moskovitz AH (Univ. of Washington) et al, "
Axillary web syndrome after axillary dissection." (Am J Surg. 2001; 181:434-439)
この研究によってAWSの症状とメカニズムが特定された。
AWSは腋窩リンパ節切除中の、腋窩リンパ管の中断の結果起きるモンドール病の一種。モンドール病は胸の皮下血管の表在性静脈炎。血管よりむしろ、リンパ管の血栓の方がモンドール病の進行に関係。
ツッパリと肩の外転による痛みを伴い、触診できる索上組織(コード)で覆われた腋窩の皮膚にある目に見える網(web)。腋窩の網は、同側の上腕内側に伸び、しばしば肘前部まで、まれに親指の根元まで達する。
後ろ向き研究で、1980-1996の750人の乳癌患者中44人 (6%)。27-73才、28人温存、14人全摘、その他2人。最近では4人の腋窩リンパ切除(ALND)のないセンチネルリンパ切除(SLND)のみでAWSに。AWSの原因は腋窩リンパ管の切断によると予測。リンパ管からフィブリン塊や静脈血栓が見つかる。
血栓になったリンパ管は血管の肥厚と共に炎症、一時的に短くなり張る。
AWSは自己限定的、長期の後遺症なく2-3ヶ月で治り、抗炎症剤、理学療法、運動などで早く治るとは証明できなかったと述べられている。
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Leidenius et al, Motion restriction and axillary web syndrome after sentinel node biopsy and axillary clearance in breast cancer (Am J Surg. 2003 Feb;185(2):127-30)
センチネルリンパ節生検 (SLB) と腋窩切除 (AC)後、AWS患者85 人。SLBのみの20%、SLBとACの72%がAWSに。 AWSは自己限定的、患者は理学療法士により、手術前後に検査を受ける。理学療法士の介入はAWSを早く治すと述べられている。
Kepics理学療法士はこれらの研究を認めるものの、何年も治らない患者がいると言っている。AWSの治療法はいくつかある。 何年にもわたり実行し他の療法士との議論してきた。
AWSは筋肉の張りではなく柔らかい組織に関係するので、筋膜myofascialをゆるめるrelease、副交感神経の技術を使う。
AWS患者は初期の特に痛みや炎症がある時はやさしく治療するべき。患者は肋間上腕神経の障害があるので、常に暑い・冷たいなどの感覚をチェック。8-10分の短時間の治療では暖かくしたパッドを使う。熱によるリンパ浮腫の心配があると、MLD(マニュアル・リンパ・ドレナージュ)を行うことにしている。家では、やけどをしないように部分的に熱するより、暖かいシャワーを勧めている。
次に、コード(索状組織?)をストレッチング。 普通は末端から中心部へと行う。まず初めに肩からできるだけますっぐになるように肘を外転。腕をまわして、手首を強く伸ばす。神経 gliding(滑動?滑らせる)技術と同じように患者は最大のストレッチにそなえて手首を曲げて伸ばし、そして、ゆるめる。コードの張りによるが、頭上高く腕が伸ばせるようになるまで、何度もいろいろな角度に腕を曲げる。
皮膚を引っ張る(traction)技術。コードの3-5cmの節を親指と人差指でやさしく伸ばす。これは腕に沿い、腋窩の中、胸の上で行う。しばしば、JPドレナージュ管が刺されていた傷のあたりにコードを見つけるので、その傷の周辺を含めている。肘前部のくぼみや腋窩でコードが実際壊れるポンとかポキリという感じがする。患者は痛くなく、可動性がすぐに増したと感じる。Dr Moeとの個人的会話で、私がコードを壊すことに不安を覚えると言うと、彼は壊しているのが、本当にコードなのか、コードを支える線維組織なのか疑問だと言った。これによる悪い結果見たことがないし、患者は浮腫の増加なく新たな可動域(ROM:range of motion) を維持する傾向にある。
筋膜をゆるめる技術:'腕を引っ張る(arm pull)'、大胸筋・小胸筋を伸ばす、肋骨間、胸郭、上腕二頭筋、 三頭筋, 横隔膜をゆるめるのは腋窩網を伸ばすのに役立つ。 胸と腋窩に平行・垂直方向療法の傷全体をゆるめる技術や皮膚を転がす(rolling)技術や傷を垂直に持ち上げるのも効果がある。
Reciprocal Pulley (
相互滑車)や可動範囲を広げる治療をはげます
Finger Ladder(指はしご) を使ってもらうことが多い。滑車は家でのストレッチに役に立つが、直立の姿勢と深い呼吸をするように指導している。
文中に説明された以外の参考文献
・Marsch WC, Haas N, Stuttgen G. "Mondor's phlebitis" - a lymphovascular process. Dermatologica. 1986;172:133-138.
・Manheim C. The Myofascial Release Manual. 3rd ed. Thorofare, NJ: Slack, Inc.; 2001.
早めに気長に治療しながら、これ以上悪くしないようにすることが大事なよう。
また天候や体調によって胸や腕が張ったら、その時はゆっくりリンパマッサージして肩のエクササイズをしよう。
しかし、AWS+50肩といつまで付き合うのやら。
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