昨日から急に暖かくなり、体がついていかず今日は休暇、家でゆっくり休んだ。私は気候の変化に弱い。明日からまた寒くなるらしい。
このところ忙しく午前2時くらいまで起きていることが多い。そうすると睡眠時間は5-6時間。特に問題なく仕事がこなせるので、なかなか早く寝られない。だから、自戒をこめて、規則正しい睡眠の必要性についてまとめておく。
化学療法中は、疲労感や脱力感が強く、午後9-10時から眠かったし、少しでも夜更かしすると仕事中でも通勤中でも急に眠くなった。これが抗がん剤による副作用であることはわかっていたが、睡眠が必要な理由については、昨年8月末に「
睡眠(1)短時間で大丈夫か」で書き始めた。
続けて書きたかったが、そのままになって4ヶ月余。睡眠に関しては文献が非常に多いので、今回はまず、ヒトはなぜ眠るのか、どうして眠らなくてはいけないかについてメモ。
少し前の文献だが、わかりやすく睡眠に関する仮説を紹介していたのが、UCLAの神経科教授で、脳研究所メンバーの
Jerome M. Siegelによる以下の記事。
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"
Why We Sleep" (Scientific American Nov 2003→和訳:
「私たちはなぜ眠るのか」日経サイエンス2004年3月)。
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レム(REM)睡眠と
ノンレム(NREM)睡眠 1953年にシカゴ大学のKleitmanらは「睡眠は脳活動の大部分が単に休止している」という従来の見方を覆す。睡眠中に急な眼球運動 (Rapid Eye Movement : REM) がある期間、
レム睡眠を発見。これはレム睡眠では何らかの活動が起きていることを示す。
これまで調べられている陸生哺乳類では、
レム睡眠と深い眠りの期間の
ノンレム睡眠とが規則的周期で現れる。
・
脳細胞のふるまいの違い 覚醒状態では脳全体が活動し、各部のニューロンは独立して活動。
一方、
ノンレム睡眠では、脳幹は発火が減少するが大脳皮質や前脳では活動。隣接する皮質ニューロンが低周波で同期して発火。前脳の基部にある
入眠ニューロンは、覚醒時は体温上昇により一部活性化し、ノンレム睡眠中に最も活性化することからノンレム睡眠の発生源の可能性。眠りを促す段階に関わるという仮説がある。
また、
レム睡眠では、覚醒中と似ていて大脳皮質、脳幹、前脳が活動的。脳幹の
レム入眠ニューロンが特に活発で、これがレム睡眠の発生源の可能性。レム睡眠中は鮮明な夢が現れ、体温は余り調節されず環境温度につれ変動。
・
睡眠中に脳細胞が修復される 覚醒時に活動するニューロンの細胞膜はフリーラジカルで傷つけられるが、ノンレム睡眠中の活動低下により修復されるという仮説がある。
動物の睡眠時間は、体の大きさと相関。小型動物は代謝率が高く、脳内の温度と体温が大型動物より高い。ノンレム睡眠中は代謝率が低く、脳内温度が低くなるので酵素が効率的に細胞修復できる。フリーラジカルの発生で傷ついた細胞膜を、長い睡眠で回復している可能性。(睡眠時間:フクロネズミ18時間、ネコ12.5時間、ヒト8時間、ゾウ3-4時間)
また、レム睡眠中はノンレム睡眠と異なり、脳は活動しているが、神経伝達物質(ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなど)の放出が抑制されている。
神経伝達物質が出続けていると脳内受容体の感受性が鈍る。しかし
レム睡眠中に神経伝達物質が抑制されることで感受性が復活する。これが気分の調節や学習を促すと考えられる。レム睡眠を奪った動物は、実験後はレム睡眠の時間が通常より長くなることから、レム睡眠を長くし、神経伝達物質を減少させることで回復の埋め合わせをすると考えられる。
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レム睡眠の特徴 レム睡眠と記憶の固定には関係が無い。イルカにはほとんどレム睡眠が無い。レム睡眠は誕生直後が最も長く次第に短くなる。ヒトのレム睡眠時間は他の哺乳類に比べ特に長いわけではなく、一晩90-120分程度。
レム睡眠の発生源が脳幹とすると、未成熟な状態で生まれてくる動物ほどレム睡眠時間が長いという説がある。成熟した状態で生まれる動物は外部からの刺激でニューロンが発達する。未成熟で感覚器の発達が遅い動物では、レム睡眠が外部刺激に代わる役目を果たすのではないか。
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睡眠の目的には、まだわからないことも多く、たくさんの研究が続けられている。でも少なくとも、よく眠り、適度なノンレム睡眠とレム睡眠の組み合わせることは、フリーラジカルに痛めつけられた脳の神経細胞の回復に良いらしい。だから、早く寝ないといけない。といつもの反省。
ではまた、この後の睡眠研究や時間遺伝子の話は次回。
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関連する睡眠研究:
・
UCLAのSemel Instituteによる睡眠研究(→
ここ)
・Siegelの他の文献:和訳「
突然眠りに襲われるナルコレプシー」(
日経サイエンス2000年4月)
用語:
フリーラジカル ・ラジカル(化学用語)
→
ラジカル(化学) (Wikipedia日本語)、
→ Radical (Chemistry)
Wikipedia・活性酸素 →
Wikipedia日本語 ・活性酸素説、フリーラジカル説 → Free radical theory
Wikipedia関連記事:
・
乳がんの予防(1)2008年度ガイドライン (15)夜間勤務
・
睡眠(1)短時間で大丈夫か~~~~~~~~~~
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